妊娠中の痔 〜手術は原則しない〜
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妊娠したら痔になる
と世間ではよく言われますが、私はこれ、間違っていると思っています。
もしこれが事実なら、出産経験のある女性は全員痔になっているはずだし、出産回数が多いほど痔がひどくなっているはずです。
でも実際は違います。
6人も子供がいるのに全く痔の無いキレイな肛門の70代の女性もいれば、出産経験がないのに立派な脱肛(いぼじ・痔核)の20代の女性もいます。
だから私は出産と痔は関係ないと思っています。
ただし元々痔がある人の場合、痔が悪化しやすいのは事実。
妊娠中は大きくなった子宮が腹部の血管を圧迫するため、下半身がうっ血しやすいです。
妊娠中に足のむくみを感じた女性も多いと思います。
肛門だって同じです。
うっ血して腫れやすい状態にあります。
また妊娠中は便秘にもなりやすいです。
便秘とうっ血で肛門にかかる負担が増大し、痔になりやすい環境下にあります。
一時的に肛門が腫れたりむくんだりすることはよくあります。
妊娠中にいぼ痔になった?
妊娠や出産をきっかけに「いぼ痔(痔核・脱肛)」になった
と言われる患者さんがおられるのですが、実は潜んでいた痔核(いぼ痔)が明らかになっただけ・・・ということが多いです。
気付いてなかっただけで以前からあったんですよ。
それが妊娠中に、うっ血により腫れて大きくなり、外に脱出してきて初めてその存在に気付いただけだったりします。
一時的・生理的な腫れであれば産後、元に戻ることも多いです。
だから絶望しなくても大丈夫です!
妊娠中になりやすい痔「血栓性外痔核」
ある日突然、おしりが腫れて、ひどいことになってる!!
と大騒ぎして緊急受診されるケースで一番多いのがこれ、「血栓性外痔核」です。
病気に関する詳しい解説はコチラを読んで下さい↓
『血栓性外痔核|手術しなくても治る痔、消えて無くなる痔、おしりの血豆』
妊娠中は腫れがひくのに時間がかかることがあります。
やっぱり大きくなった子宮が下半身に負担をかけているからでしょうか・・・。
普通なら3日くらいで楽になる痛みも、妊娠中だと1週間以上続く場合もありますが、ちゃんと便通を直して、痛み止めの軟膏を塗っていれば生活に支障はないくらいには軽減できます。
慌てず焦らず経過をみましょう。
腫れると本当につらい「嵌頓痔核」
元々いぼ痔(痔核・脱肛)がある人で妊娠中に大きく腫れてしまうことがあります。
痔核内に血栓が多発し大きく腫れ上がり、肛門の外に脱出したままになり、
座るのも痛い、歩くのも痛い、横になっていても何してても痛い・・・
と、もう言葉にならないくらい、本当につらそうに受診されます。
妊娠中でなければ「駆け込み緊急手術」となることが多い痔疾患です。
でも妊娠中は原則、手術はしません。
だからどんなに痛くても出産が終わるまで頑張ってもらいます。
どんなに腫れていても、痛みがひどくても、2週間ほどすれば随分、腫れも痛みも落ち着くことが多いです。
私は漢方薬の湿布を作って、それを腫れている部分に当てるという応急処置をしているのですが、これが何故か結構効くんです。
ベッドで横になって当ててもらっているのですが、30分くらいしてから患者さんを見に行くと、
「先生、これ効きます。すっごく楽になってきました。全然さっきと違います!」
と言われることが多く、湿布の作り方を教えて、自宅でも続けてもらいます。
すると・・・
1週間くらいで痛みはほぼ改善し、2週間後に来られた時には腫れもかなりひいていることが多いです。
妊娠中に嵌頓痔核になる人は、元々、立派ないぼ痔(痔核・脱肛)の人が多く、妊娠前から出て来たイボ(痔核)を中に戻していたり、何かしら自覚症状のある人が多いです。
いぼ痔(痔核・脱肛)の人が全員、妊娠中に悪化するかというと、そうでもないんですよ。
「小さないぼ痔だからこのまま妊娠しても大丈夫だろう・・・」と思っていた患者さんが大きく腫れたり、「この人はデカイいぼ(痔核)がたくさんあるから妊娠したら腫れるだろうなぁ・・・」と思っていた患者さんが全然、大丈夫だったり、どうなるかは妊娠してみないと分かりません。
でも、悪化する人と悪化しない人の違いに最近気付きました。
やっぱり便通なんですよ。
妊娠中に便秘をしてない、便秘をしないように管理が出来ている人は、立派な脱肛(いぼ痔・痔核)があっても腫れていないんです。
だから便通の管理って本当に大切だなぁと妊婦さんを診ていて感じました。
妊娠中は原則、手術は禁止
どんなに痔がひどくても
どんなに患者さんが望んでも
妊娠中は原則、手術は禁止です。
と、私たちは教育されました。
施設や医師によって考え方や方針が違うかもしれませんが、肛門を専門にする医師のほとんどが妊娠中の手術はしないと思います。
手術だけじゃありません。
注射療法(ジオン注射)も妊娠中は禁忌です。
理由は色々あるでしょう。
胎児にどのような影響があるか分からない
という医学的な理由もあるでしょうが、私は女性として、妊娠・出産を経験した身として、妊娠中は出来るだけ薬や不自然なものを避けるべきであると考えています。
特に妊娠12週までは胎児の器官形成期なので、私は自分の患者さんには、強力ポステリザン軟膏やボラザG軟膏などの痔疾薬すら使いません。
生まれてきた子供に何かあった時に後悔したくないからです。
だから私は妊婦さんには手術はしません。すべきではないと考えています。
今スグ手術をしなければならない痔なんて、そんなにないです。
出産が終わって落ち着いてからでも間に合います。
痔は命に関わる病気ではないので、治療を後回しにしても大丈夫です。
それよりもおなかの中にいる赤ちゃんのことが最優先。
子供のために大人は我慢
それが私たちの方針です。
大丈夫!痔でもちゃんと出産出来ます!
妊婦さんが泣きそうな顔をして診察室に入ってこられることも多いです。
「私、こんなおしりで、出産できるんでしょうか・・・?」
と不安で泣き崩れる人もいます。
全然、痔がひどくない妊婦さんでも
「出産で痔が悪化したらどうしよう・・・と思うと、出産の時にいきむのがこわいんです」
と、不安で不安で毎日がブルーになっている人もいます。
でも大丈夫!!
今までたくさんの妊婦さんを診てきましたが、痔のせいで出産出来なかった人もいませんし、痔のせいで赤ちゃんに何かあった人も知りません。
腫れたらどうしよう・・・
腫れたときに考えましょう😊
痛くて動けなくなったらどうしよう・・・
じゃあ、その時は受診して下さい!
出産後なら治療できますから😊
今、痔がつらい人も、今、痔は落ち着いてるけど出産の時に悪化するのが心配な人も痔でもちゃんと出産できますから頑張って下さい。
それは今までの私の患者さんたちが証明してくれています。
出産後、本当につらい人は治療に来られました。手術を受けて産院に戻って行かれた患者さんもおられます。
それでもちゃんと出産できています。
子育てもされています。
今、不安なのはすごく分かりますが、その不安、おなかの赤ちゃんにも伝わりますよ😊
だから、自分のために・・・じゃなく、あなたのおなかにいる「もう一人の命」のために不安を手放して欲しいのです。
心配して悩んで解決できることであればいいのです。
でも「悩むこと」と「考えること」は違います。
どうにもならないことを心配して不安になるのが「悩むこと」。
これから何が出来るのか建設的に思いを巡らすことが「考えること」。
だから診察に来られた患者さんに一緒に「考えて」もらいます。
妊娠したら、妊婦さんの体は妊婦さん一人のものではなくなります。
もう一人いるんですよ。
おなかの中に。。。
人生の中で何度も訪れない貴重な10ヶ月。
せっかくの「二人ぼっち」期間を悶々と悩んでブルーに過ごすよりも、しあわせなひとときにして欲しいです。
そのお手伝いが出来れば嬉しいです😊
大丈夫!
痔でもちゃんと産めるから!
診療所のセラピードッグ「ラブ」🐾
ラブは男の子です🐶
よく女の子と間違えられます
ラブは犬だけど、私のことを
「お母さん」だと思っています😅
元皮膚科医という異色の経歴を持つ肛門科専門医。現在でも肛門科専門医の資格を持つ女性医師は20名余り。その中で指導医の資格まで持ち、第一線で手術まで担当する女医は10名足らず。元皮膚科医という異色の経歴を持つため、肛門周囲の皮膚疾患の治療も得意とし、肛門外科の医師を対象に肛門周囲の皮膚病変についての学会での講演も多数あり。
「痔=手術」という肛門医療業界において、痔の原因となった「肛門の便秘」を直すことによって「切らない痔治療」を実現。自由診療にもかかわらず日本全国や海外からも患者が訪れている。大阪肛門科診療所(旧大阪肛門病院)は明治45年創立の日本で2番目に古い肛門科専門施設でもあり日本大腸肛門病学会認定施設。初代院長の佐々木惟朝は同学会の設立者の一人である。
2017年10月には日本臨床内科医学会において教育講演を行うなど新しい便秘の概念を提唱。